知識の呪縛から解き放たれる『思考の整理学』
概要
本書は、知識を詰め込むのではなく、自分の中で熟成させて新しい発想を生み出すための「知的生産術」を解説した一冊です。学校で教わるような記憶中心の学習法とは一線を画し、情報がどのようにして独自のアイデアへと昇華していくのか、そのプロセスと思考法を体系的に示してくれます。 このアプローチは、デザイナーにとっても非常に有益です。デザインとは、集めた情報を整理し、本質を見抜き、新しいコンセプトを創造する行為そのものです。本書が説く思考のプロセスは、リサーチから得た膨大な情報や漠然としたイメージを、一つの優れたデザイン案へと昇華させる際の大きな助けとなるでしょう。
印象に残った箇所
積極的に忘れた方がいい
本書では、「忘れる」という一見ネガティブな印象を持つことに関して次のように語っています。 ”勉強し、知識を習得する一方で、不要になったものを処分し、整理する必要がある。 (中略) 頭をよく働かせるには、この「忘れる」ことが、極めて大切である。頭を高能率の向上にするためにも、どうしてもたえず忘れていく必要がある。 ” このように忘れることの重要性を踏まえた上で、積極的に忘れるために以下の方法に睡眠、運動、別のことに取り組むなどを提案しています。 これらはどれも、すぐに実践できます。また、忘れることを恐れないようになるため、より積極的に情報に触れることができるようになることが、この章を読む最大のメリットだと思います。
メタ・ノートで自分だけの法則を作る
本書で提唱されている「メタ・ノート」。これは、思考を寝かせ、抽象化し、構造的に再整理することで、アイデアを実用的な知に変えるノート術です。 具体的にデザイン制作においての活かし方は、以下のようになります。 1. 日々の気づきやビジュアルインスピレーションを即座に記録 街で見かけた配色、面白い構図、気になる広告、ふとした違和感などを、スケッチやメモ、写真でストックします。 2. 一定期間寝かせた後、関心の高い要素を抽出し再整理 記録した素材を見返し、「なぜ惹かれたか」「どんなテーマ性があるか」を言語化。カテゴリ分けや連想を通じて、自分なりの視点で抽象化します。 3. 抽象化されたテーマや視点を「自分のデザイン原則」としてまとめる たとえば「爽やかに見せる余白の使い方」「動きのあるグリッド設計」など、繰り返し現れる傾向を自覚し、メタ・ノートに集約していきます。 4. 制作時にメタ・ノートを参照し、方向性や骨格のベースとする 案件ごとに新しく考えるのではなく、すでに練られた視点や構造を出発点とし、応用・展開することで深みのあるアウトプットに導きます。 このように、メタ・ノートを作ることで、自分の中でのデザインに対する審美眼の向上と法則性を導くことができ、メタ・ノートを制作時に使用することで血肉化した法則を色んな案件に応用することができます。
とにかく書いてみる
本書では、とにかく書いてみることを推奨しています。これは「書くという行為を通じて、初めて思考は形を持ち、客観的に見つめ直すことができる」という考えから述べられています。 デザイン制作においても、「とにかく作ってみる」ことは大事なのではないでしょうか。作ってみると、すでに脳内に蓄積されたデザインや考えがあれば、「何か違うな」や「これだ!」という判断ができます。また、作ることによって思考が進み、考えてもみなかった突破口が見えてくることも多々あります。 手探りでの創作は不安を伴いますが、思考を起動させるためには、まず作り始めることが大切です。
最後に
本書が教えるのは、単なる知識ではなく、アイデアを熟成させる思考のプロセスそのものです。情報過多の時代だからこそ、この普遍的な「知的生産術」は、自分だけの揺るぎない創造性を築くための羅針盤となるでしょう。アイデアが思うように出ない方は必読の書です。